乙姫むつみ 姉キャラはヒロインにになれない?

 乙姫むつみ、実においしいキャラ(怪しげともいう)である。破壊的な天然ボケ、周囲を自分のほのぼのペースに巻き込む。テストで自分の名前を書き忘れると思いきや、意外と切れ者で要所要所をまとめる。作中においてははるか、キツネのような大人の女性としての役割と、スゥのようないたずらっ子の役割を一人でこなすことができた。体が弱く、ルーチンギャグで魂が抜ける。高校時代に病欠で留年したらしいが、「Kanon」の栞とは比べものにならないくらい発育がよい。ボケキャラが作中で一番グラマーでお色気担当を兼ねるというのは珍しい。「ラブひな0」を読む限り、むつみファンは巨乳好きがかなり多いようだ。(私もそうだけど)
 また、第45話の再登場以降、景太郎、なる、むつみの浪人生による三角関係が成立し、また景太郎の幼なじみという非常においしい役どころが与えられた。ドリームキャスト版では、なる・みずほと並んでヒロインの扱いを受けている。

 そんなむつみだが、東大入学後の沖縄を最後にシナリオのメインから外れ脇役化してしまう。カナコが登場したとはいえ、キツネやスゥより出番が少ない。モルモル王国での景太郎争奪戦にもまったく参加せず、ラストでウエディングドレスをもって現れるまで存在を忘れらていた。(連載中はホントにスタッフの頭から抜けていたらしい) アニメでも彼女の扱いは原作に呼応しており、沖縄編と同時期にオンエアされたTV終盤では活躍したものの、その後のスペシャルやOVAでは原作と同様に元気を失う。OVAのEDでむつみと雪乃五月がキャストの3番目(景太郎、なる、むつみ、しのぶ、・・・・の順番)になっていてかつての準ヒロインとしての面影を残していたのが救いか?

 しかしなぜ、景太郎と同時に東大へ入学し、過去のからみもあって限りなくヒロインに近い要素を持つむつみがストーリーのメインから外れてしまったのだろうか?
 むつみがメインキャラ中で年長者であるため、まとめ役を要求されたというのもある。作中で悩む主人公たちに方向性を与えるのは年長の女性と相場が決まっている。(余談だが、井上喜久子の演じるキャラにこの役回りが多い)  はるかが瀬田とのからみでストーリーの前面へ出るようになったため、むつみにこの役が回ってきた。しかし赤松先生がはるかに思い入れがあるといっても、人気の高い(「ラブひな0」ではしのぶ、モトコと二位グループを形成し、キツネとスゥに大差を付けていた)むつみをオーダーから外してランナーコーチにするようなマネをすることもなかろう。まとめ役ならキツネにでもできる。 

 むつみがメインから外れた大きな要因は、むつみが女性として魅力的すぎたことである。しのぶにとってむつみは成熟した大人の女性であり、景太郎絡みで彼女にもてあそばれたこともあるし、むつみの巨乳にコンプレックスを持っていた。なるとしても、景太郎とむつみの波長が合うことや、過去の出来事などでむつみに負い目を持っていた。
 東大入学後、なるとの仲が進展せずに焦る景太郎を誘惑してモノにすることは、むつみには容易であっただろう。しかしむつみと景太郎がくっついても、それに危機感を覚えたなるが何らかの行動に出ても、どのみち「ラブひな」は終わってしまう。つまりむつみは強力すぎて作中で使えない、「スレイヤーズ」のルナ・インバース(郷里の姉ちゃん)みたいな存在だったのである。また景太郎とむつみの関係が青年コミック(「ああっ女神さまっ」や「藍より青し」)っぽくて週刊少年マガジンにそぐわないというのもあっただろう。(私はなるが典型的な少年マンガのヒロイン、むつみが青年コミックのヒロイン、しのぶは少女マンガの主人公、カナコはエロゲーのヒロインと考えている。) 「ラブひな」の連載を続けるためにはむつみに退場してもらわねばならなかったのだ。

追記
 これを書いてから数年後、アニメ版「ToHeart2」のタマ姉の役割ってむつみと同じようなものではと思っていたら本当にそうなってしまい「(ギャルゲー系作品の)姉キャラはヒロインになれない」を実証したように思えた。しかしそれとは反対に「SHUFFLE!」では原作ゲームのメインヒロインではない(作中では典型的な姉待遇だった)亜沙先輩が主人公と結ばれ、姉キャラがヒロインになる前例ができた。もっとも「乙女はお姉さまに恋してる」では原作ゲームのメインヒロインで主人公の姉的存在(学院に不慣れな瑞穂の面倒を見てくれた)の紫苑はアニメでの扱いがイマイチでツンデレラこと貴子がヒロインになっており、姉キャラの扱いは予断を許さない状況にある。今後「ダ・カーポ2」がアニメ化された際、朝倉音姫の扱いがどうなるか注目される。

さらに追記
 アニメ版「ダ・カーポ2」は音姫シナリオがベースではあるが前作でのヒロインの扱いにトラウマでもできていたのか恋愛描写はなかった。ところで最近では、「少年漫画のヒロイン」から「脇役のお姉ちゃん」に転ずるケースが発生。「To LOVEる」のララがそれで、続編「ダークネス」はモモが主人公なのでララが典型的な「天然ボケ・巨乳のお姉ちゃん」として描写されている。

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